あ ら す じ

へそ曲がり夫婦の妻が介護に燃えあがりました
そこで目にした現とジレンマ

果たして自らが受けたい介護とは?

へそ曲がり亭主と暮らす妻は
やはりへそ曲がりでした

亭主の持ち帰ったパンフレットに
妻の悩みの解決策が……
やってみたら 大成功!
自信が挑戦させたのは資格取り

飛び込んだ介護現場の現実は
なぜ? なぜ? の連続でした
ふりかかる矛盾がジレンマを・・・

受けたい介護とは違う現実に
疑問とジレンマは深まるばかり

へそ曲がり視点なればこその
「自らが受けたい介護とは?」
偏って見える彼女視点の提案とは?

そこにはがありました
いま見失っている視点とは?

 「自ら受けたい介護を考えてみよう」
「介護は親世代の他人事ではない」
「介護はすぐそこに迫る自らの現実なのだ」

皆さんもご一緒に
いまそこにある介護を
見つめ直してみませんか?

 



 

小説の一部をご紹介してます

 今日は同行の日なのね。
 同行と言うのは、利用者さんに介護サービスを提供する場合、単独のヘルパーさんだけでやってると、その人に、不都合のあった時に、サービスを提供出来なくなってしまうのを避けたり、新人さんに、現場に即した対処の仕方を教える場合に、私とその人で組んで、一人の利用者さんを看ることなの。
 これって、理には適ってるけど、色々起こるのよ。
 どこも、現実は難しいの。

 今日は“ポワンちゃん”のお話しをするわね。
 この人、美也子さん、ていう名前があるんだけど、仲間内では“ポワンちゃん”て呼ばれてるの。
 なぜに“ポワン”かと言うと、天然なのよ。
 まあ、私にも、そういう処はあるけど、この人、全部が天然なのね。
 今日の利用者さんは89歳のお婆ちゃん。
 でも、この方、矍鑠(かくしゃく)としてらっしゃるのよ。いわゆる認知症はあるけど、まあ、普通に接してる限りは、分からないわね。
 むしろ、人格というのか、その人が、これまでに生きてこられた深みって云うのかな?
 お話ししてると、この方から教わる事は多いのよ。
 こういう時って、私は義母と格闘してた頃を、よく思い出すんだけどね。
 それでね、今日は、私が“ポワン”を支えてあげる役だから、サービスの主体は“ポワン”がやるわけね。
 この“ポワン”って、自分自身は、どマヌケのくせに、利用者さんには厳しいのよ。
 今日も、お婆ちゃんをお風呂に入れる準備で、先ずは着てるものを脱がせてあげる事からはじめたんだけどね。
 あっ、そうそう。今日のお婆ちゃんのお名前は“史(フミ)さん”ね。
「フミさん! もっと、もっと腕を上げてくれなきゃ、袖から出ないでしょ~。ねえ……」
“ポワン”が、施設中に聞こえるくらいの大きな声で言うわけよ。
フミさんも「美也子! こら! 何度言ったら分かるんだい! 私ゃ耳は遠くないんだよ!」
これが、また大きな声で怒鳴り返すわけ。
 “ポワン”たらね「自覚が無いだけだよ。フミさん!」って、ヤルわけよ。
「馬鹿! 何度言ったら分かるのよ! この娘は、小さい時から手を灼かせてきたけど、この歳になっても、ちっとも治らないんだからね、お前は!」
フミさんも、またまた返したわけ。
 分かるでしょう?
 フミさんは“ポワン”の本名を知ってるから、その名前で呼ぶんだけど、自分の娘と、ゴッチャになってるのよ。
 だから、フミさんも大声あげるし、キツイわけね。
 私が“ポワン”に「もう少し、やさしいトーンで、ゆっくり話しかけてあげなさい!」って言っても、コイツときたら、右から左で聞いてないわけよ。
 さっさと次の手順を進めちゃって「ほら、片足しっかり上げなきゃ、ズボン脱げないよ! フミさん!」
相変わらずの大声やってるわけ。
 だから、私が「こら“ポワン”! 私の言ってる事を聴いてる? ねえ! ちょっと?」
 でも、彼女、相変わらずシカトなわけ。
 だから、私がフミさんを支えながら、ソット足を持ち上げるようにしてやろうとした途端、“ポワン”のヤツったら「今日は、フジちゃんは見てる役なんだから、手を出さなくて、いいよ! 私一人で出来るもん!」
 私にも、やっぱり施設中に聞こえるくらいの大きな声で言ったのよ。
 だから、私も「こら“ポワン”! 私は耳が遠くないんだからね!」って、思わず言い返しちゃったのよ。もちろん、言ってから「シマッタ」とは思ったのよ。
 そうしたら、フミさんが、私をキット睨んでね、
「あなたさんは、どちらさまでしたかねえ?」って、聞いて来たのよ。
 横で“ポワン”の奴がニヤニヤしながら私の方を見上げて「フミさんボケだから、許せ!」
そう小さな声で言いながら、拝み手したのよ。
「私ゃ、お前に向かって言ってんだよ!」ってんで、思わず“ポワン”の奴を睨みつけてしまったわさ。
 そしたら、フミさんが、私に、急にやさしいお顔になって「どちらさまか存じませんが、娘の失礼をお許しくださいませ」
 そう言って、ペコペコ頭を下げるのよ。
 そこへ、支援さんの頼子さんがやってきたの。
 支援さんていうのは、施設専属職員のことね。
「“ポワン”! 何度言ったら分かるんだい、お前は! 私が外の物干場に居たって、お前の声が聞こえるじゃないの! もっと、史さんには、やさしく話しなさいって、言ってるだろうが!」と、もの凄い剣幕で叱ったわけ。
 ところが、ところがよ。
 “ポワン”ときたら、私の時と全く同じで、これにも全くシカトなのよ。
 彼女、さっさと次の手順に入ってたの。
 今注意受けた頼子さんが居るまん前でだよ……。
「フミさん! フミさんてば! もっと左の足を上げて! ズボン抜げないよ! 上げて!」
またも、大きな声で言ったのよ。
 頼子さんも頭にきちゃって「こら“ポワン”! お前なあ! フミさんは、左がマ痺してて、ご不自由なんだって、何度言ったら分かるんだ! それに、さっき私が言った事を聞いてたんか? 」
 頼子さんも、あまりにいつもの、この“ポワン”に、頭にきてたもんだから「何で、私が利用者さんとポワンまで介護しなきゃなんないのよ! 戦力にならないじゃないさ! ゴメンネ、こんなのを同行につけちゃって。私、今夜、コイツと夜勤なのよ。思いやられるでしょ?」って言ったのよ。
 そうしたら“ポワン”のヤツときたら「頼子さん、今晩よろしくお願いしま~す。頼子さんだと、私、楽勝で、もの凄く助かるんで~す」って、シャーシャーとして言ったの。
 こいつの頭ん中って、いったいどうなってんだろうって思った瞬間に「お前! 就職先と入所先、間違えてんじゃねえのか?」って、頼子さん“ポワン”に捨て台詞残して、行っちゃったわよ。
 そしたら、コイツったらね「間違えるわけないじゃんねえ? 頼子の奴、ボケはじまったんじゃないの?」だって。
 私さあ、腹が立つより何より吹き出しちゃったわよ。
 そうしたら、フミさんが「お若いのに、あの方、お気の毒ねえ~」だって。
 色々あるのよ。現場って。