ドローンフォーシーズ

 

 

 

 

初 版

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 2011年3月11日14時46分18・1秒、三陸沖、深さ24キロの海底を震源とする、巨大地震が発生した。つづいて、太平洋沿岸部には巨大津波が押し寄せて来た。
 津波によって原子力発電所は壊滅的な損害を被り、原子炉は暴走し、悲劇的事態に陥った事も、記憶に新しい。今日まで、廃炉に向けた過酷な作業が続けられている。

 2015年に入り、我が国領海内では、違法操業を繰り返す中国漁船の数が、異常なまでに膨らんでいた。その数は、数十から数百隻にまで膨れ上り、操業対象も、魚類ばかりで無く、大陸で珍重される赤サンゴにまで及んだ。手口も統制された大船団をもって漁るという、組織的なものになっていたのだ。
最早、従来の密漁を超えており、陰で国家が糸を引く恣意的動きへと変貌しつつあった。

 2015年8月、リソース・プランニング社(RP社)の本社では、チーフ・リソース・マスター(CRM)の鎌藤が岩手、宮城、福島、茨城各県のRMから入った報告に、同じ括りからなる情報のコブが形成されている事を掴んでいた。
情報のコブとは、RP社が誇るマトリックスシステム上に、同種同類のデータが創り出した情報の塊を指して言う、社内用語である。

 RP社は、派遣先の示す社会への関心事情報を収集する為に、企業や団体に観察員を派遣している。収集される関心事情報は地域や業種、職種……など、様々な括りに分類され、データベース(DB)化されて、多角的な分析が加えられる。
 これが、RP社が誇るマトリックス分析システムなのである。
DBは地域ごとに配属されたRM(リソースマスター)により分析され、クライアントに、地域毎のトレンドを提供して行くのがRP社のビジネスモデルある。
 トレンドは地区や市町村、都道府県、全国などの括りからもレポートされ、クライアントの規模に応じた要求にも応えている。
 このお話の主人公である鎌藤は、彼らRMを束ねている、全国を統括するCRM職にある。
 鎌藤はコブを形成しているデータを出現頻度の順にマトリクス上に展開させた。
 すると、中国小型船団なる括りに、妙な動きのある事に気付いたのだ。
「消灯中国イカ釣り漁船一隻を囲む15隻からなる船団出現 発:岩手RM」
「消灯中国イカ釣り漁船を囲む漁船団出現 発:宮城RM」
「消灯中国イカ釣り漁船と漁船団15隻出現 発:福島RM」
「消灯イカ釣り漁船一隻他中国漁船15隻出現 発:茨城RM」
 コブの括りは、消灯中国イカ釣り漁船であった。
 いずれも、漁協や役所の水産部門に派遣されている、観察員から吸い上げられた報告だった。
 いずれのデータも、日本の領海内、すなわち地元漁場に出現した密漁船団の動きを示している。そこで、鎌藤は各地の水産部門に派遣している観察員に対し「中国船絡みの水産関係情報に注視せよ」と指示した。
 同時に、各支部のRMに対しては、情報の集約結果を、本社CRMに報告するよう求めた。
 鎌藤の疑問は、津波による原発汚染水流出事故が起きて以降、東北地方の太平洋岸に近づこうとしなかった密漁船団が、なぜ、此処に来て、各地に出没するようになったかにあった。
しかも、集魚灯必須のイカ釣り漁で、灯を装備している船が一艘しかおらず、漁り火で知られる高輝度照明を、夜間に点していないとの情報が含まれていた事であった。

 観察員からの報告とは別に、定期的に入手している外部機関の情報に、漁業調査船報告があった。RP社では、こうした外部機関が作成するレポート類をもマトリックスに反映させてきた。やはり、そこにも、鎌藤は気がかりなコブを発見した。
 この時期に、すなわち五月~八月初頭のアカイカ漁は、東経170度以東の北部太平洋で操業(出典 水産大百科 http://bit。ly/1Gn0sK1)するとされており、温暖化による潮の流れに変化があるにせよ、三陸や北海道沖にある近海漁場で漁が行われるのは、明らかに異常だったのだ。
 さらに、この船団には漁業操業には見えぬ節もあり、そこに、鎌藤は情報のズレを感ぜずにおれなかったのだ。
 情報のズレ、この言葉、聴き慣れないかもしれない。日々観察員から送られて来る情報と、外部機関の情報とのギャップを指す言葉で、RP社社内では頻繁に使われる言葉なのだ。
 定期的に収集される外部機関情報には、この他にも沢山あるのだが、彼が特に注目したのは、漁業取締船レポートだった。
知事許可漁業と大臣許可漁業で、漁業取締船の所管は異なる。外国漁船の違法操業は水産庁が取り締まり権限を持ち、拿捕も、水産庁の取締船が行う。(出典 Wikipedia http://bit.ly/1RAic0p)
 しかし、水産庁情報には、密漁に関わる取り締まりや拿捕の報告が皆無だったのだ。
鎌藤の疑問は益々膨らんでいった。